脳の神経幹細胞が老化する仕組みを解明 九大ら

2025年6月14日 20:08

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 九州大学、奈良先端科学技術大学院大学などは3日、脳の神経幹細胞が老化する仕組みを解明したと発表した。

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 神経幹細胞の遺伝子自体は変化しないが、エピジェネティック制御と呼ばれるその発現を制御する仕組みが変化することで、神経幹細胞の老化がもたらされるという。

 研究グループによれば、この変化は可逆的で、将来的には老化した神経幹細胞を若返らせることができる可能性があるという。

■神経幹細胞とは?

 研究グループが今回研究の対象とした脳の海馬に存在する神経幹細胞には、新しく神経細胞を生み出すという機能がある。

 しかし加齢によって、分裂能や神経細胞への分化能などその機能は衰え、海馬における神経細胞の数が減少。記憶力や学習能力が低下する。

 研究グループによれば、このような神経幹細胞の機能の低下は、神経幹細胞の遺伝子が変異することで引き起こされるのではないという。

 DNAを取り巻くたんばく質の構造を変化させることで、遺伝子の発現を制御する「エピジェネティック制御」と呼ばれる仕組みが変化し、引き起こされるという。

■エピジェネティック制御の変化はSetd8の発現低下が原因

 では、何がエピジェネティック制御の変化を引き起こすのだろうか。

 研究グループによると、エピジェネティック制御の変化は、Setd8と呼ばれる酵素の発現が低下することで引き起こされるという。

 Setd8は、エピジェネティック制御にかかわる酵素の1つだ。研究グループがその発現を抑制したところ、神経幹細胞の枯渇が通常よりも速く進行し、新しく生み出される神経細胞の数が減少。記憶力や学習能力が低下したという。

 そしておもしろいことに、このエピジェネティック制御の変化は可逆的で、Setd8の働きを一時的に阻害した後にその働きを回復すると、神経幹細胞の機能も回復することが確認されたという。

 このことから研究グループは、Setd8の制御によって老化した神経幹細胞を若返らせることができる可能性があり、将来的には、加齢による脳機能の低下やアルツハイマー症などの加齢に伴う神経変性疾患に対する、新しい治療法の開発につながる可能性があるとしている。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る

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